睦言




我愛羅はその色が嫌いだった。
砂隠れの里では滅多に見れない緑色。
どこかくすんでいる砂隠れの里も嫌いだったが、生命力に溢れた緑はもっと嫌いだった。
だから生き生きと飛び回るそれを砂で追い詰め捕らえたのだ。
そしてそれをいつも通りに握り潰そうと砂と一体化した手に力を入れる。
この緑を取り込めば幾許かの間だけでも当てのない焦燥感を消せる気がするのだ。
我愛羅は躊躇いもなく掌中のものを砕いた。


「!」
ハッと目を開いた我愛羅は暗闇の中で忌々しそうに眉間に皺を寄せた。
「………どうしました?」
と、すぐ隣から半覚醒の声がする。熟睡していた筈なのだが、忍だけあって我愛羅の気が乱れたのを察知して目を覚ましたらしい。我愛羅は無遠慮に隣で眠っていた男、ロック・リーの丸い頭を掴んで顔を自分の方に向けさせた。
「怖い夢でも見ましたか?」
乱暴な扱いに文句も言わず、リーは手を伸ばして我愛羅の頬を撫でた。目は覚ましたものの完全に気を抜いているのか寝惚け眼のままである。我愛羅は頬に触れているリーの手を取ると低い声で告げた。
「お前を殺す夢だ」
そう言って我愛羅は出会った頃に潰した左手を力を込めて握る。相当の負荷がかかっているのだが、リーは恐れた様子もなく緩く笑う。
「痛いですよ」
と言うだけで手を引き抜こうとはしない。それどころか同じだけの強さで握り返してくる。
「殺される夢を見られて嫌ではないのか?」
「どうしてです?夢に見たもの全てがその人の願望とは限らないでしょう?」
問い掛けにきょとんとした顔で問い返すリーに我愛羅は密かに嘆息する。二度ばかり実現しかけた事なのにどちらも意識が無かったせいかリーには現実味が乏しいらしい。怖がって欲しい訳ではないが、忍の癖に甘さが付き纏うリーを我愛羅は心許なく思うのだ。
「でも僕が君を困らせているのなら嫌です」
答えない我愛羅をどう思ったのかリーは太い眉を下げた。今でこそ良好な木ノ葉と砂だが、やはり木ノ葉崩しの影響は大きく未だに砂を警戒する木ノ葉の忍は多い。それ自体をリーは非難するつもりはない。自分も師や仲間を手にかけられていたら物分り良くできたかどうか分からないからだ。ただ自分と我愛羅が親密になるのを近しい人たちの多くが必ずしも歓迎してはくれなかったのは辛いものだった。
それでも自分が望み、我愛羅も欲してくれているのならと思い切ったのに、我愛羅に負担をかけてしまっていては苦心して一緒にいる時間を作る意味がなくなってしまう。
「困ってなどいない。ただもうお前を殺したい訳でもないのに何故あんな夢を見たのかと思っていただけだ」
「なら本当にただの夢ですよ。あの時の印象が強かっただけでしょう」
柔らかく笑いかけながらリーはもう一方の手を伸ばして我愛羅の手を両手で握った。それからやや躊躇った後で続ける。
「でも君が夢に見るほどあの事を気にしてくれているのは、不謹慎かもしれませんが僕としてはちょっと嬉しいです」
「不謹慎と言うより悪趣味だな」
「……悪趣味な僕は嫌いですか?」
我愛羅の一言に恐る恐るといった声音が返るのと同時に手を握る力が強くなる。それに対し我愛羅の口元がごく僅かだけ、それこそ今のリーの位置にいるので無ければ気付かない程度に引き上がった。
「今更だ。俺とこうなっている時点でお前が悪趣味なのは分かっている」
「言ってくれますね。君こそ砂の里では選り取り見取りなクセにわざわざ他の里のしかも男を選ぶなんて変わってます」
悪趣味がどうではなく自身の選択を揶揄されたリーは口を尖らせて言い返した。さして変わりはないものの年上で身体も大きい男の子供っぽい反応に我愛羅の笑みがまた少しだけ深くなる。出会った頃には微塵も見られなかった優しい瞳の色にリーはうっすら頬を染めて視線を泳がせた。そして、
「別に悪趣味だっていいんです。僕は幸せなんですから」
と呟く。
「―――そうか」
そう言われた途端に胸に湧き起こった諸々を素っ気無い一言に集約した我愛羅は、部屋の隅に置いてある瓢箪の砂を使ってリーを自分の方へと更に引き寄せた。かつて奇妙な血継限界を持つ忍と闘った時に危機一髪の所を救ってくれたのと同じ柔らかさを持つ砂の動きにリーは逆らわず身を任せる。
「起こして悪かった。もう寝ろ」
「はい」
密着する中で一回りは小さい身体で我愛羅はリーを抱きこむようにする。いつもは逆を好む我愛羅にリーは珍しいと思ったが口にはせずに大人しく薄い胸に顔を寄せた。どちらかと言えば低めの体温にとろりと眠りを誘われてリーはゆっくり目を閉ざす。
「砂の音は川の音に似てますね」
砂が瓢箪へと戻る音をそう連想したリーが呟くと我愛羅の声が頭の上からした。
「砂は不毛の土地しか生まない」
どこか苦しげに聞こえる声にリーは我愛羅の背に手を回しながら「そうでしょうか」と小さく返す。
「根気良く水を与えていけば砂はやがて土になって命を育むようになります」
「気の長い話だな」
「……我愛羅君、君の渇きを癒すのは僕の役目だと自惚れていいですか?」
空気振動ではなく密着した身体を伝わって届いたような微かな声に明確な答えは返らなかった。ただ抱き込む力が強くなり、頭の上にそっと顔が寄せられたのを感じ取ったリーはこっそり嬉しげに微笑む。
(今日が僕の誕生日だったと後で知ったら怒られるでしょうか)
里を越えて最も大切な存在となった相手に心中で密かに謝罪しながら。





おわり





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金色蝙蝠さんのリー生誕祭でDLフリーとありましたので、
わたくし、ガッツリと頂いて帰ってまいりました!(GJオレ☆)
こちら様の我リー小説の何ともいえない色っぽさがとても好きで憧れております^^*
作中の何気ない言葉に含まれる二人の『デキちゃってる感』がたまりません…!!(悶絶)


しっとりと馴染んでいる 極上の恋人


…みたいな我リーが理想なので、勉強させて頂きますッ(鼻息)
ギリギリセーフのDLで厚かましくもサイト掲載させて頂きました!
いまいつばめ様、どうもありがとうございました!!(深々)







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